その昔、米の代用として食されていた栃の実。大網の奥山で大切に守られてきた巨木に実る栃の実は、茶色の輝きをはなっています。あくが強く、そのままでは食すことの出来ない栃の実を、昔の人は囲炉裏から出る灰を使ってあく抜きをし、おごっそ(ごちそう)のもち米につき込み、風味豊かな栃餅に仕上げました。「一度として同じ味にはならない」おばちゃんたちはそう言います。手間ひまかけた、手作りの味。太古からの人々の暮らしを感じ、どこか懐かしい栃餅。大網では伝統の特産品、大網の栃餅として、「とちもちの会」が原料の生産、加工、販売を行ってきました。担い手の高齢化により、一度は途絶えた栃餅作り。くらしてをはじめ、若いメンバーがおばちゃんたちからその技を引き継ぎ、再び作り始めました。大網に携わるみんなが愛する栃餅のその精神を、後世に残し伝えてゆきます。
毎年9月はじめ。暦の二百二十日頃、山の実は実りの時期を向かえ、栃の実も地に落ち始めます。小動物がかじったあとや、運んだあとを感じながらの栃の実拾いは、子どもにかえったようでとても楽しいものです。持ち帰った実は、虫抜きのため水に2〜3日つけたのち1カ月ほど天日干し。乾燥したら「からから」といい音が鳴ります。それからいよいよ加工が始まります。大網では主に冬の間の仕事。おじちゃん手作りの栃むき機で、一粒一粒皮むき。そののち、流水に10日間ほどさらします。そして、灰を使って再度あく抜き。薪ストーブ、囲炉裏、炭焼きで出たものを使います。温度や灰の量を、栃の実のあくの抜け方の様子を見ながら手加減で調整。あくが抜けると共に、とちの実独特の風味が残ります。あく抜きを終えた栃の実をもち米と共に蒸し上げ、ついて栃餅は完成です。くらしてが育てたこがねもちの生産には、大網に集うたくさんの方が携わってくれました。お餅にした時の美しい色と風味。家族においしい栃餅を食べてほしい。そういう気持ちで奥深い栃餅作りを行っています。
おもちの表面には米粉がまぶしてあり、焼くと香ばしく焼きあがります。あんこ、きなこ、くるみなど、甘いものと相性が良いです。焼き餅、おぜんざいなどにしてお召し上がりください。可能ならば、ぜひ炭火焼で。格別に美味しくいただけます!
◎くらしての仕事
とちもち/炭焼き/野良仕事/山仕事/猟/つちのいえ/イベント・ワークショップ/学びの場/暮らしの体験/仲間づくり/記録/伝承活動/情報発信/